編集後記
大津政雄

年報13わらじ 編集後記より

編集者の特権は、原稿を誰よりも早く手にできることでしょう。当然、いろいろな原稿が集まりました。年報担当初年度なので、編集の基本方針は持たずに、とにかく原稿を数集めることに奔走した感じでした。色々な会員に書いてもらうことを原則にして、ようやく何とか形になるくらい原稿が集まりました。会う度に催促、督促の言葉をかけられた人にとっては非常に鬱陶しかったことでしょう。それでも書き惜しみしてるのか、この人の原稿は読んでみたいと願う人の何人かからは、原稿を集めることができませんでした。読めずに残念です。
次の号もやるつもりでいるので、お願いしたいことは3月までの原稿提出と遡行図、特に冬のルート図は添えていただくことです。
どこかの山や谷を踏査した地域踏査の記録を集約してまとめることも一つの方法でしょうが、私達にとっては時間的に山は遠いものです。この間、山形での結婚式の帰りにかつて所属していた会の仲間と仙台近郊の谷を遡ってきました。その時つくづく感じたのは、なんと住まいから身近に山があるんだろうかということでした。朝の8時に仙台を車で出て、谷をつめ帰りに温泉でゆっくりしてこられ、次の日の仕事に全く支障がない、それほどの身近さなのです。おのずと山への取組み方、登り方が違ってくると思いました。私達東京近郊に住む者の山への取り組みは、通過型(深野稔生氏の言葉)ちょっと長くても滞在型にしかなれないでしょう。おらが山はなかなか持てるものではないでしょう。一方、山までのアプローチが1〜2時間であれば定住型あるいは定着型の山行も可能となり、じっくり腰を据えて山に取り組めます。当然、山行あるいはそれに伴う記録のまとまり方も自ずと変わってくるでしょう。とりあえずは、今のところわらじの仲間は通過型の山行記録でいくしかないでしょう。しかし、いつまでもそうもしてられません。通過型の山行が勝手気儘な山行になりつつあるからです。会の水準を一定以上に保っためにも、滞在型などの共有化が何か必要になりつつある時のようです。
原稿の内容の話しをすれば、とにかく読んでいておもしろいと思ったのは小宮さんの原稿です。なにせダジャレが多くおもしろい。柳沢さんの態度と変わらぬ真摯な文章にも引き込まれ、沢田さんの筆も読みやすく感じました。町野の素直さもよかったが。
小宮さんがおもしろい提案をなされているので、ここでは特にそれを紹介してみましょう。本人はダジャレのつもりなのかもしれませんが、『ゴロジュ』という造語です。ゴルジュ状をなしているが、谷の中はゴーロというよくあるパターンを表現しています。地形図の毛虫記号に期待して行ってみると、ゴルジュはゴルジュだが谷はゴーロという期待外れの場面に出くわすことがよくあることでしょう。今までは、『ゴルジュの形状は成しているが、谷は期待はずれの平凡な河原あるいはゴーロだった』と言う描写が、『ゴロジュ』で失望の意味さえも込めた表現にかえることができます。これを普及させみてはいかがでしょうか。
でもやっぱり最も読みたかった原稿は、マサシ君の軽いクッチの2〜3行に集約された文章だろうか。月報88年6月号の深山幽谷の『ゲレンデ何を考えるか5級への固執』の書き方も感じるものがありましたが。あの文章は深山幽谷の中でも特に気に入っている内容の一つでした。編集者になって真先に読めることを楽しみにしていたのですが、5月12日の事故でそれもかなわぬものになってしまいました。今でも彼の甲高い声が耳の奥に時々響きわたります。
山行をともにすることは数少なかったが、他の人と同様に僕にとってもなかなか大きな存在でした。まだぽっかり穴があいている感じです。ご冥福をお祈り申し上げます。
最後に、この年報を編集するにあたって、長年年報に携わっている若さんには適切なアドバイスを遂次頂き、感謝しております。また、遡行図あるいはルート図のトレースに、柳沢さん、浅野君、寺沢さん、春日さん、田村美奈子さんの力を、山行一覧表の作成は泰造さんの力をお借りしました。期日を守って皆さんきれい書いていただきましたことを大変感謝しております。来年のさらなる協力も併せてお願いします。次年度はもっともっと楽しいものにしたいものです。

 

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