飯豊・前川下追流沢〜三国山〜川入
2006年8月5日〜8日
遠藤淳 渕上麻衣子
記録=渕上麻衣子
飯豊の険悪な渓の中では、前川本流は明るくて美しくて比較的素直な渓というイメージを持っていた。それと2年前の飯豊での冬合宿でシシ笠尾根を登るために雪に包まれた前川を渡渉したという思い入れもあり、他の飯豊の本流筋はわたしには太刀打ちできないという思いが先立つが、前川だけは遡行してみたいと思っていた。しかし、思いだけは強かったが、それだけではどうにもなるはずがなく実際には事前に沢へあまり行けずトレーニング不足のまま合宿突入となってしまった。そして実際の渓では渡渉でこんなにも恐ろしい思いをしたことは初めてであり、2人パーティで淳さんの心労は大きかったことと思う。
8月5日
ゲートから2時間の林道歩きでブナに囲まれた湯ノ島小屋に到着。鹿瀬駅から乗ったタクシーの運転手さんによるとメジロはまださほど発生してはいないと言っていたが、やはりここ数日の夏日で孵化し活動を開始したようだ。小屋から先はオンベ松尾根の登山道に入り、しばらくすると実川への明瞭な道があり難なくオンベ沢出合の手前で入渓となる。初めてなので普段の水量は分からないが、轟々と流れる本流を前に2人ともけっこうびびっていた。ハーネスを付けて身支度を済ませいざ歩き始めると初っ端から渡渉ができずに巻くことになり、大兵衛沢出合までの短い間で渡渉にロープを使用した箇所が2回もあり先が思いやられる。とにかく水に浸かる回数が多く体力の消耗が激しい。苦労しながらも冬の渡渉点である入り鳥ノ子沢出合までなんとか辿りつき、2年前の冬合宿で下降した藪尾根、渡渉した河原、登った藪尾根(シシ笠尾根)をしみじみ眺め大きな満足感に包まれた。あの時とは対照的な青空のもとこの場所に立てたことで、降りしきる雪のなかを震えながら腿までの渡渉をした苦労が報われたような気がする。まったくの自己満足の世界だけどね。
その先もとにかく渡渉が厳しく地図上で数センチのところを何時間もかかり、やっと今日の幕営予定地の下追流沢が見えてすんなり行けるかと思いきや、出合手前の急流が渡れず左岸を巻いて下追流沢に入った。
【コースタイム】ゲート8:00〜湯ノ島小屋10:00〜オンベ沢出合入渓11:30〜大兵衛沢出合12:30〜入り鳥ノ子沢出合13:45〜下追流沢出合17:00
8月6日
下追流沢出合すぐ先の釜が突破できず、一度下追流沢へ戻り右岸から尾根を越えて沢へ降りた。その先に雪渓が見えたので今度は右岸から巻きに入り、魚止めの滝もまとめて巻いて2時間以上高巻いたあと滝上に降りた。降りた河原でしばらく休みほっと一息つくが、また渡渉をしないと先へ進むことができない。水勢強くスクラムを組んだにも関わらず、私が深みに足をとられ少々流されてしまう。スクラムを組んでいたのと岩がすぐにあったので事なきを得たがとにかく渡渉が容易ではない。その先も遡行できず延々と高巻きを強いられたため、残念だがこれ以上本流の遡行は無理という結論にいたり下追流沢出合へ引き返すことにする。昨日の幕場にお昼過ぎに着き、渡渉と高巻きで疲れた体をゆっくり癒す。しばらくのんびりした後、早速釣りに出かけることにした。今回はわたしが活躍できる場は釣りしかないと思っていたので、このために釣竿を新調し(安物)、「初めての釣り遊び」という山渓が出している本まで買って釣り研究(低レベルな)をしてきた。ところが昨日は失敗だったので、今日は時間もあることだし焦らずやろうと思い、1箇所魚影があったところで特に期待もせずに糸を垂らしていたらなんと釣れてしまった。今まで小さいのしか釣ったことがなかったので、あまりのひきの強さにあたふたと動揺して引き上げたらたった1回の釣りでなんと竿の先が折れてしまった。自分の不器用さにがっくりしたがそれでも岩魚が予想以上の大きさだったので意気揚々と幕場へ帰った。
【コースタイム】出発5:30〜魚止めノ滝上8:30〜引き返す9:40〜下追流沢出合BP12:40
8月7日
下追流沢の記録は2人して読んでいなかったが、宮内さんの「なーんもないよ〜」(それは上追流沢のことであったことは後で知る)という言葉を信じていたので、きょうはお昼には稜線にあがっちゃうかもねとお気楽な会話をしていた。ところがとんでもなかった。詳細な記録は淳さんに任せて、この日のトピックスを1つだけ。落差3mくらいの滝を登っている途中で上の雪渓が崩壊し増水。つるつるのハング気味の岩でホールド、スタンスがなくトップの淳さんは水流の右側をショルダーで越えていった。落ち口にも良いホールドはなくマントリングのような格好で登った。そしてわたしが登るために落ち口の左岸にハーケンを打ちシュリンゲを垂らしてもらう。最初のスタンスがないので石を積み重ねて登ろうとするとどーんと突然地鳴りのような音が聞こえて、その後水が氷のような冷たさになったかと思うと急に水が濁りあっという間に増水してきた。シュリンゲ掴んで急いで登ろうとするが乗っていた石が崩れてシュリンゲにぶら下がる格好になり頭から氷水を浴びてしまう。すっかり体が冷えてしまったのでとにかく一刻も早く登るためにロープを投げてもらい確保してもらいながらゴボウで登った。雪渓はその後も音を立てながら崩れていく。タイミングがずれていてもっと雪渓の近くにいたら危険だった。
夕刻が近付きやっとゴルジュ帯が終わって渓が開けると河原になり、今日も快適な幕場が得られることに安心。西日に照らされた河原の穏やかな風景に気持ちも落ち着いてきた。今夜もいい焚火だった。
【コースタイム】出発5:30〜巻岩山への二俣9:30〜1250m付近の河原BP16:10
8月8日
今日もいくつかの滝を越えて、巻きをこなし(すみません曖昧です)、詰めは草原、の夢も空しく慣れ親しんだヤブ漕ぎ後に登山道へぶつかった。三国小屋で管理人さんや縦走にきていたカモシカスポーツの店員さんと会話を楽しんだ後、川入へ向けて下山開始。川入へ着くと入山日とは比べ物にならない量のメジロの猛攻を受けた。メジロに集られ防虫ネットを被りとぼとぼ歩いているわたしたちを哀れに思ったご夫婦が車で拾ってくれ、温泉まで連れて行ってくれた。感謝感謝。前川本流は遡行できなかったが、わたしには充分過ぎる飯豊の沢だった。
【コースタイム】出発5:30〜疣岩山への二俣7:10〜稜線〜川入12:30
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