恵羅窪山から坪入山を越えて丸山岳へ
南会津・黒谷川源頭周遊+沢に降りて一夜
2007年5月1日〜5日
L.岩崎正樹 岩永晶子 松倉淳
記録=岩永晶子
今年の冬、南会津一帯は圧倒的に雪の量が少なかった。ふと「黒谷林道が使えるかも!」とひらめいた。例年、この時期の黒谷林道は、雪の片斜面のトラバースが続き、きれ落ちた足下には雪代を集めてほとばしる黒谷川が恐ろしい。もちろん時間もかかる。その黒谷林道をスタスタ歩けるとすれば、利用しない手はない。そこで恵羅窪山から取り付いて、小手沢山、山毛欅沢山、稲子山、坪入山、高幽山、梵天岳、丸山岳、火奴尾根と、黒谷川源頭をぐるっとめぐってきた。さらにモチツボ沢右岸尾根を下って沢で1泊し、左岸尾根を登り返すという素敵な寄り道付きである。
5月1日
幸運にも城郭沢の手前まで車が入れた。ヤッホー! できれば城郭朝日山から取り付きたかったが、最初の徒渉ができず断念。2004年の連休に熊倉夫妻や徹さんと来たときは雪の上をとことこ歩いていたのに、まったく違う風景だ。
波沢山に登りたいという岩崎は、城郭沢左岸尾根に取り付こうと迫る。でも、急だし、藪だし、それに私は久しぶりの山だし……と説得して、恵羅窪沢右岸尾根から取り付く。ごめんよ、岩崎……。でも、のどかないい尾根だったよね。
やがて広いブナの尾根にでる。恵羅窪山の稜線は相変わらず素敵な場所だった。心を解き放って無心になれる場所。振り返ると城郭朝日山が白く輝いていた。藪じゃないのか、ごめんよ、岩崎……。あとは馴染み深い稜線をポクポク歩き、小手沢山の手前に幕を張った。
5月2日
予報に反していい天気。小手沢山山頂でダケカンバの三姉妹にあいさつをして、山毛欅山へ。
この辺りから眺める窓明山って気品があって美しい。ちょうど黒谷側から湿った雲が、手前に連なる1400m前後の低い稜線を越えてゆっくり流れだし、幻想的な風景を作っていた。この低い稜線が藪漕ぎになるかと思ったが、4月に降った雪のせいか歩きやすかった。
三本ブナ峠から先、高幽山までは、私にとって初トレース。岩崎はわらじ入会前に奥さんと山毛欅山から三岩岳までトレース済み。そして南会津デビューのまっちゃん。稲子山の急登にせっせとステップを刻んでいるが、何を感じているのだろう。
せっかくだからと、少し離れた稲子山山頂に足をのばし、坪入山へ向かうと雨が降り出した。坪入山山頂から下りは急斜面で、さらに15mほどのナイフリッジがあり、緊張する。岩崎が先頭でコンパスを振り、一歩一歩安定した歩き。今回、私の体力不足&足の痛みで、岩崎が共同装備を持ってくれた。「だから事前山行しようといったのに」とぼやかれたが、その通りだ。1ヶ月半ほど仕事の猛烈な藪をこぎ続けて、廃人同然で連休を迎えた。それを許し、何かとフォローしてくれた岩崎に心から感謝。山来れてほんとにうれしいかったよ。
さてナイフリッジの先に風の避けられる場所があったので幕とする。
この晩は荒れた。
5月3日
さわやかな朝。高幽山、梵天岳へと素晴らしい展望歩きとなった。振り返ると窓明山、三岩岳、会津駒ケ岳の稜線と袖沢の谷。燧岳の双耳峰は後半になってよく見えた。正面には、ひときわ険しい荒沢岳がそびえ、その左に中ノ岳や丹後山が連なり、平ケ岳へ続く。遠くに巻機山。右に越後駒ケ岳があり、末丈ケ岳から毛猛山への稜線が続く。昨年、岩崎と熊倉さん、佐野さんとつないだ8日間山行が夢のようだ。遠くから眺めると1日の行程がずいぶん長かったことがわかる。
火奴尾根への分岐を越えて、沢が入り込んだ地形に素敵な窪地をみつけて幕とした。昨年のケガ以来、久しぶりに山を歩いたまっちゃんは「さすがに疲れた」というので、設営をお願いして、岩崎と2人、丸山岳を往復する。私は2度目、岩崎は初めての丸山岳登頂。この小さな頂の価値がどれほどのものかは置いておいて、去年の春から「5月連休は丸山岳に一緒に行こうよ」と言ってきた約束が果たせて、互いに充実感に満たされた。
岩崎は当初、古町丸山から丸山岳をつなぎたいと言っていた。私は田子倉湖を渡って高松山あたりから取り付きたかった。まだまだ行きたいルートは無数に散らばっている。静かな情熱にひたっていると、遠くから黒い雨雲がこちらに向かっているのが見えた。今さら濡れたくないよ! 慌ててテントに駆け戻った。
少しパラついただけで、穏やかな夕暮れが広がった。テントの入り口から窓明山が眺められる。振り返ると丸山岳の山頂も見える。正面には火奴尾根がピンクに染まっていた。
夜、岩崎に起こされる。テントの入り口と同じ高さに大きな月がでていた。
5月4日
ゆっくり起きて3人で丸山岳の山頂を踏む。私は今年の秋の集中山行を丸山岳で企画しているので、白戸川や大幽沢の源頭をあれこれ下見する。幕場にもどってテントを干したり、昼寝したり、斜面でソリをしたり、松っちゃんは雪壁をダブルアックスで登ったりして遊んだが、どうにも時間があまってしまった。岩崎がモチツボ沢の右岸尾根から黒谷川へ下りたいと言いだす。悩んだがどの谷にもデブリが見えないので同意する。尾根の下り始めは雪の大斜面で快適だったが、すぐに雪が消えて長い藪こぎとなった。まあ、こんなものか。
黒谷川の本流はゴーゴーと音を立てて流れているので、タチツボ沢の出合に幕を張る。やっぱり春の沢はいい。銀マットを広げて居酒屋オープン。みんなご機嫌に酔っ払った。マキはたくさんあるのに、焚き火がつかなかったことが残念。なんか芯が湿っていて歯が立たなかった。
5月5日
モチツボ沢左岸尾根を登る。最初が急だが、踏みあともあり歩きやすい尾根だ。クマのフンがあまりに多くて、少し緊張した。上部の切りつけに「クマ山」とあった。火奴尾根にでて、のんびり下る。会津山岳会のトレースがあった。今頃、丸山岳の山頂かな。
火奴山あたりの素敵なブナ林に憩い、さらに下っていくと入山した日は冬景色だった黒谷川の谷間が淡い緑色に染まっているのが見えてきた。そうだよ!これこれ。五月連休のこのエリアは、この芽吹きの谷に下りていくときの胸の高鳴りがたまらない。煙るような緑色がどんどん濃くなる谷の底へ、どんどん下っていった。最後はなんとなく尾根をつないで、橋の手前へ降り立った。目の前にはコゴミ畑。無事下山の握手も早々、そそくさと収穫する。
黒谷林道はいっきに春景色。ライムグリーンの新緑がたなびき、桜がほのかなピンク色を沿え、雪代が波立つ。あぁ、とろけるような芽吹きの風景だった。
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