越後・戸倉〜鳩待峠〜ススケ峰〜赤倉岳〜幽ノ沢山〜小沢岳〜下津川山〜ネコブ山〜桑ノ木山〜蛇崩沢左岸〜十字峡〜六日町(利根川横断山スキー)

2008年3月20日〜23日
L.須田忠明・矢本和彦
記録=矢本和彦

 2月に入ってから、3月後半の飛び石連休をつなげて4連休にした山行を組みたかったが、なかなかパートナーが見つからない状況が続いた。山スキーで長く歩けるルートで、利根川横断山スキーが希望だった。いったん、が手をあげてくれたが、直前に仕事が入り涙を飲んだ。そんなパーティ作りに苦戦している私の姿を見て、須田さんが声をかけてくれた。ルートは、様々な形で利根川横断スキーを実践している須田さんの提案で、今回のルートとなった。須田さんにとっては未知のルートではなかったが、私にはほとんどが未知のものであった。ひと気のない山深いところということで利根川横断、滑りは初めから期待していなかった。

3月19日

 出発前、私は風邪気味で鼻水が止まらない体調だったが、山に行けば治るだろうと高をくくって家を出た。しかし、低気圧の通過が遅れ、天気はあまりよくなく、ポツポツと小雨だ。東所沢駅で集合し、通称ダーちゃんX(赤いエクストレイル)に乗って、関越道から沼田を目指した。この夜は、道の駅白沢・望郷の湯で仮眠する。外では相変わらず雨がポツポツ、たまにザーっと音を立てる。体調もあまりよくないので、気分がまったく乗ってこない。折角の4連休だというのに。

3月20日

 早く起きても仕方ないので、ゆっくり6時40分に目を覚ます。ダーちゃんの車で天気予報を見ると、やはり回復は遅れたままで、明日の午後から良くなってくる様子だ。途中、コンビニで買い物をして戸倉に向かう。戸倉に着いても天気は変わらず雨だった。まったく気が進まない。ゲートに着くと、二人の大きなザックを背負った山スキーヤーがゲートに向かって歩いて行った。この雨の中、よく行くなぁと思っていると、次第に雨は雪に変わっていった。雪ならいいかということで、出発する気になる。ゲートの手前の路肩のスペースに車を停め、準備をする。
 須田さんは今回赤いタイプVデビューということで、靴はスカルパF1プラスフィット、ディナフィット板、TLTビンディングということで、まったく同じような格好の二人になってしまった訳だ。
 ゲートの先は除雪しておらず、先ほどの二人のトレースが続いていた。雪は結構な降りだったが、ヤッケ・ミトンにはニクワックスが効いていて水滴をよくはじいている。途中で、二人に追い付く。至仏山と燧ケ岳を滑ると言っていた。ここでトップを交代する。津奈木橋で少し休み、国道から別れて橋の右に入る。しばらく進むと、また国道と合流する。
 鳩待峠に着くころには、雪は小雪に変わり、天気は若干、回復傾向のようだ。鳩待山荘の脇で少し休み、シールのまま樹間を滑り下りて山ノ鼻を目指す。途中、赤布があり、その後、電柱が現れ、それに沿って進む。山ノ鼻に着くと、雪に半分埋まった東屋の下で休んだ。山は見えないが、視界はある。猫又川は流れとなっていてスノーブリッジもない様子だった。二俣を過ぎると水量が少なくなり、途中で水筒一杯に水を汲んだ。この日は、2万5千図でいう猫又川の上流「左俣」という文字の左側でツエルトを張った。

3月21日

 3時半に起床し、6時に出発する。夜は意外に暖かかった。空は小雪だが、たまに青空が見えるので、もう少しで回復しそうだ。なだらかな斜面をシールで登り、ススケ峰の手前で稜線を西に外れて、なだらかな下りをシールのまま降りる。赤倉岳への稜線は風が強く、全体的にアイスバーンのようでテラテラと光っている。コルでスキーアイゼンを付ける。細い稜線を須田さんトップで進み、9時15分、私にとって二度目になるマイナー10名山の赤倉岳の山頂に立った。
 山頂からは、本谷山が見え、右に越後沢の左俣、中俣、右俣と続くが、左俣は雪に覆われて真っ白だったが、それ以外は大滝が出て、周囲の雪も落ちていた。



 赤倉岳から続く稜線は、細くてスキーで進めるような状態ではないし、担いで下りるのも時間がかかると思われた。相談の結果、一か八か赤倉沢を滑って利根川まで行ってみることにする。このころになると天気は完全に回復し、空には見事な青空が広がっていた。
 源頭に滑り下りると雪は重い。デブリのあとを避けながら進むと、やがてゴルジュ帯となる。この時期、側壁の雪は落ち切っている様子で、谷の中はひどいデブリだけど、滝が埋まっていて通過できるという面もある。ただ、いつ落ちてくるか油断はできないし、かといって何もできず、急いで通過していくのみだ。デブリの中をスキーで突っ込んで通過したり、一歩一歩跨いで乗り越えたり、辛抱強さが求められる。
 11時半ころ、二俣のところで滝が出ていて、板を担いで右から側壁を薮伝いに降りた。その後も少しデブリが続き、200〜300mほど板を担いだまま歩いた。板を付けると、またしてもデブリの中の我慢の滑りが続いた。いつ着くのか分からないようなチマチマとしたデブリの通過、時間だけがどんどん過ぎていくようだ。そんな状況に須田さんは、時間がかかり過ぎると不安を口にする。しかし、そのすぐ先で視界が開けて利根川の出合となり、ホッと胸をなでおろした。13時20分だった。



 期待していたスノーブリッジはわずか上流にあるものの、側壁が急で遠目に見て取り付けないので、ネオプレーン製の渓流靴下で徒渉することにする。赤倉沢の少し上流の台地で、ズボンを脱ぎ、プラ靴を袋に入れて首から下げ、須田さんに続いて河原に降りた。須田さんのアドバイスでストックは少し長めにした。小穂口尾根の末端まで、初めは腿まで、後は膝くらいの深さの中、十数mで徒渉は終わった。この辺りは、地形図では湖底だが、この時期は水量が少ないこともあって意外と簡単に徒渉できるし、年によってはスノーブリッジができているそうだ。
 冷たい水で喉の渇きを潤すと、気分もだいぶ楽になった。小穂口沢の左岸を進むと、後は自然に地形に合わせて左に右にスノーブリッジを渡って進める。いいペースで歩けた。長倉沢の出合は、沢の対岸から支尾根を越えて出たが、その100mほど先にスノーブリッジがあり、それを渡って出合にツエルトを張った。この日も水を沢から汲むことができた。斜陽が幕場を照らし、明るくて静かで穏やかな光景だ。夜は星が輝き、放射冷却で、寒い夜となった。

photo : 上の2枚・赤倉沢を下る/下の2枚・利根川本流に出合い徒渉する/右・長倉沢の出合近くのビバーク地

3月22日

 昨日より早い3時に起床し、5時40分に出発する。夜の冷え込みで雪は固く締まりスキーアイゼンで取り付きの斜面を登る。稜線に出ると、雪が固く、尾根が細いこと、段差で雪が切れていることから、アイゼンに履き替える。1246mピークを越えて、下ったところでスキーに変える。スキーアイゼンは付けたままだ。沈まないのでペースは上がる。かなりいい感じで登って行ける。
 幽ノ沢山付近はブナ林がきれいだ。当然、切り付けなどない。ここを歩いたことのある人間はどれくらいいるだろうか。そんな山深さだ。振り返ると奥利根湖が広がり、その奥に富士山が見える。ゴージャスな取り合わせで得したような気分になる。
 稜線に出ると北風が強く吹き付けてきた。雪は全体的に固い。幽ノ沢山から小沢岳の稜線で少し下るところがあるが、私はスキーを付けたまま下ると靴擦れが痛くて我慢できず、ワンポイントだけアイゼンに変えた。コルでまたスキーに変えて少し進むと須田さんが日だまりで待っていた。風が吹くと寒いが、止むと暑いから、温度調整が難しい。そこから須田さんは歩行アイゼンに変え、私はそのままスキーで、小沢岳を目指した。
 1886mピークからの下りは10mくらい藪交じりの固い雪面をバックステップで下りる。そして、またスキーを付け小沢岳のピークまで行った。頂上は風が強かった。ここで私の1リットルのプラティパス水筒の縁から、ポタリポタリと水漏れしているのが判明した。慌てて2.5リットルの方に移し替えたが、この時、アイゼンケースにしていた袋を飛ばしてしまった。
 当初、下津川の源頭を滑るかという案もあったが、宿沢出合まで滑れて、かつネコブ山までの時間節約になるかといえば、疲れていることもあって宿沢出合からの登り返しでかえって遅くなることが予想された。戸倉に置いた車の回収もあって、結論的には下津川山経由で稜線を、板を担いでアイゼンで歩いていくことにする。ここから須田さんがすべてトップでラッセルしてくれた。しかし、坪足ではたまに雪の層を踏み抜いて消耗させられる。ピークの少し手前で稜線が広くなったので、そこでスキーに変えた。
 下津川山からネコブに向かう稜線は、しばらくシールを付けたままのスキーで滑れる。ネコブ山の東面にはすごい雪庇ができている。周囲を山に囲まれ、稜線の両脇は切れ落ち、すごい情景の中を滑っている自分がいた。そして、尾根の中間あたり、尾根が細くなるところでアイゼンに変えた。ここも須田さんがラッセルしてリードしてくれた。陽の当たらない北面はピッケルのシャフトが刺さらないほど硬いところもあった。暑さで喉が渇く。息を切らせて一歩一歩進んだ。1713mピークを越えて、尾根が広がったところで、またスキーに変える。そして、あとは一気にネコブの山頂まで板を進めた。
 ネコブ山の頂上で須田リーダーと固い握手、山行は終わっていないが、ここまで来ることができて大満足だ。雲ひとつない完璧な晴天、桑ノ木山まで緩やかな稜線が続いている。もう登りはない。シールを外して滑る。須田さんは絶叫(猿叫)してかっ飛んで行ってしまった。
 桑ノ木山で今後の行動について相談したが、やはり車の回収を考え、先に進むことにする。ここでミスしてしまったのだが、本当は蛇崩沢右岸尾根を下りるつもりが、勘違いして左岸尾根に入ってしまったのだ。結果的に問題はなかったが、前回より尾根が細いなと思っていたら、最後、蛇崩沢が右手に現れ、板を外して沢を渡って2mの雪の溝を越える破目になって気がついた。しかし、今回、一番快適な滑りは桑ノ木山からのこの滑りであった。
 ドウボン淵の取水口のやや下流で一休み、またしても沢で水を汲んだ。雪を融かす時間と燃料を節約できて、おいしい水を飲めるのだから当然だろう。今日の宿泊は十字峡で決まりだ。林道は小岩沢の手前で左岸に渡るが、それまでは右岸はすごいデブリの斜面だ。デブリは嫌だが、取りあえずシールがなくても板が滑るので楽だ。小岩沢から下は快適に滑れる。
 トンネルを潜って橋を渡る。途中一か所、水流で雪が途切れて板を外す。そして、私たちを快適な一夜が待っていてくれた。ちなみに、ここで私のドコモのムーバ携帯は、アンテナは立たなかったが、メール送受信ができた。






3月23日

 3時半に起床し、5時半に出発する。ダムの右岸を行く。橋を渡ったすぐのところはアイゼンで通過した。その後は、私はシールなしのスキーで、須田さんはシール付きのスキーで歩いた。結局、差はなかった。ダムの事務所の少し手前で六日町の銀嶺タクシーに携帯から電話を入れ、迎えをお願いした。
 その後、電車の乗継ぎよく、殆ど待ち時間なく沼田にたどり着けた。
 3年ぶり2度目の利根川横断スキーは、天気にも恵まれ、とても充実した山行だった。しかし、須田さんはもっと困難なルートを長期間にわたって幾度も行っているのだから、すごいし、うらやましいと思う。
 今回、事前に郡界尾根に行ったトマの風の棚橋さんら(わらじの宮内代表も参加)に山行中の交信をお願いしていたが、私たちは連日谷底だったので、電波は届かなかった。
 念のため持参したロープ(8o×20m)は使わずにすんだ。EPIのボンベは水を沢から得られたお陰で、小1個で丸2日間もった。ナイロンツエルトは、ニクワックスのお陰で水滴をよくはじいたが、結露も多かった気がする(気のせいか?)。
 あと、ディナフィットにいいたいのは、私のST4.0のトップのシールを装着するための器具は途中で壊れて外れてなくなってしまった。そのため、その後、シールのトップはテーピングで固定せざるを得なかった。このようなプラスチック製の器具などなくてもいいようにはできないのだろうか。あと、スキーのトップをもう少し反らせてもらえないだろうか。すぐに雪に刺さってしまって、少々おっかないときもある。最近のスキーにいえることかもしれないが、材質の問題でもあるのだろうか。それともシール装着の関係か。でも、山スキーは、もう少し反っていた方が使いやすい気がする。
 最後に、利根川を横断する山スキールートについて考えると、やはり歩き尾根ということになる。それに繋げるための本谷山、そしてネコブ山となる。源頭に近い深沢あたりを、丹後山東尾根を滑って横断するというのもできそうだが、十字峡から先は林道通過が難しく、日向尾根から回り込むとなると考えてしまう。今回のルートも、いいルートだと人に勧めるようなものではなく、少しマニアックなものなのだろう。3度目の横断、チャンスの訪れを待とう。

photo : 三国川ダムへ下る

〈コースタイム〉
3月20日 戸倉9:10〜鳩待峠12:45〜山ノ鼻14:10〜猫又川左俣16:10
3月21日 6:00〜ススケ峰手前7:30〜赤倉岳9:15〜赤倉沢二俣11:30〜利根川出合13:20〜小穂口尾根末端(横断後)14:10〜長倉沢出合16:00
3月22日 5:40〜小沢岳10:40〜下津川山11:50〜ネコブ山14:20〜ドウボン淵16:00〜十字峡17:20
3月23日 5:30〜三国川ダム事務所6:45