東北・焼石岳 尿前川フロ沢

2010年7月17日〜19日
L遠藤徹・宮内夫妻

 一昨年の岩手宮城内陸地震による林道修復工事と胆沢ダム建設に伴う道路の付け替え工事が重なり、中沼の駐車場へ向う林道は通行不能のままで、いつになったら開通するやら見当がつかない。したがって尿前川に入るためには、遥々山越えをしなくてはならない。私はこの時点で計画の見直しを迫ったが、宮内さんは3連休で時間が余るところだから丁度いいと取り合ってくれない。ツブ沼駐車場から沢の格好で登山者に混ざり山道を登り始めた。中沼駐車場までツブ沼コースの一般道を経て、3時間のアルバイトは結構しんどく、やっと尿前川の流れに辿り着いたときには、もうヘロヘロで「今日はこの辺で泊まろうよ」と弱音が本音で出てしまう始末であった。
 入渓地点から立ちはだかるように見えていた本流の滝は簡単に右から超えたが、尿前川特有の粘土のような岩質は初めてなのでたじろいでしまった。すぐに右岸からハタシロ沢を合わせ、続けて同じ右岸からフロ沢が流入する。フロ沢もハタシロ沢も本流特有の濁りは見えないが、透き通った綺麗な水でもない。フロ沢の出合から見える釜を伴った最初の斜滝は、右から登れると言われているが、滑りそうなので左岸から小さく巻いた。次の幅広の7mは右からロープを出して直登するが易しくはない。続く側壁から滝となって流入する間違えそうな屈曲部も登れずに、やや戻って右から巻いた。小滝とナメが続くと威圧的な40m直瀑が現れる。ここはどんな奴でも登れないだろう、左岸のブッシュから露岩を越え、続く泥壁を熊サザ頼りに強引に巻くと狭い小尾根に乗る。ブッシュを掴んで沢床に降り立つと「なんだよぉ! ナメだけじゃなかったのか」と宮内さん。どうやら焼石フロ沢を舐めてかかっていたらしい。
 東北のナメに戯れるはずの連休は、ロープ捌きに翻弄される連休となってしまった。この先で現れた15mは右壁を登るが悪く、ミッテルの千衣子さんは私のショルダーで壁に張り付けられてから強引に引き上げられる構図となる。
 やがて穏やかなナメ地帯をむかえ、久しぶりに安堵する。尿前本流のナメ帯は見たことはないけれど、ここは多分本流にあるそれのミニ判と言うところだろうか。その先で美しい40mの斜瀑が現れる。ここも記録では登られているようだが、ノーピンでは尻込みしてしまう。滝の下で右岸から合わさる枝沢との中間のブッシュにロープを伸ばし、途中から瀑身に出て、上部はシャワーを浴びながら登る。トップロープで登らせてもらえば高さもあって楽しいかもしれない。
 続くこの先のゴルジュでいきなり沢は消えたように見える。歩いていくと左に90度曲がってそそり立つ廊下のどん詰まりに真横から滝が懸かっていた。なかなか面白い地形だ。周りを見渡すが巻くとしたらどこも大変だ。どん詰まりの滝から少し戻った左岸の側壁に取り付いた。細かいホールドを拾いながら15mほど上るとルンゼとなるので、左のブッシュからトラバースして滝上に出た。もう滝は懲り懲りだ!と拝みたくなった頃、釜を伴った2段の滝が現れる。1段目を右から登り、上段は右のカンテ状を巻き気味に登った。いくつかの小滝を越えるとやがて怪我をしてしまった件の滝を迎える。
 左に屈曲する場所に懸かるその滝は、高さこそ低いがシャワーを浴びながら登るヌメった滝であった。宮内さんが先行しロープを伸ばす、千衣子さんが続きラストの私が上った。この滝自体は難しくはない。容易に登り終えたが滝頭にビレイする場所が見当たらなく、小さなナメの段差を超えた先で宮内さんはロープを引いていた。その小さなナメ段差に足を掛けたかと思うが早いか、私の頭蓋骨の全体がび〜んと響いた。どうやら見事に滑ったらしい。両足を同時に滑らせ顔をモロに叩き付けてしまった。右目の上を3センチほどの長さで裂傷し(後から知ったけれど小さな傷だった)、鮮血がしたたる。もとより男は血に弱い。おろおろ、くよくよ、じたばたする。
 ロープを解いて、安全な場所に移り、上を向いて止血に努めるがダラダラと生暖かい血がいっぱい流れて止まらない。私のザックにも救急用品はあったが、宮内さんと千衣子さんが応急処置と手当てしてくれた。幸い、源頭が近く、その後はロープを使うこともなく遡行を終えられた。
 ハタシロ沢を分ける尾根上の1202mを目指す。読図どおり小さな尾根を乗越し、ハタシロ沢の源頭と思われる小さな流れに下るが、ここからどう進めばよいか判然としない。すると沢の上流部にハイキング道が横断しているように見えた。これを詰めてみたが道は存在せず、ヤブの生え方が下からそう見えただけに過ぎなかった。振り返ると意外なほどの低さに銀明水小屋が見えた。まぁ、いずれにせよ一般道までたいした距離ではなかろうと ヤブを漕ぎ始めるが、ヤブは所々手強い。さきほど登ってきたハタシロ沢と比べると明らかに水量の多い枝沢(本流?)を横断すると雪渓の残る台地に出た。私の怪我の具合も考慮し、今夜は銀明水の小屋で泊まろう。と話し合っていたが こちらの方が誰もいなくて開放的なのでここに泊まることにした。
 翌朝は10分ほどで一般道に出て、僅かな下りで銀明水の小屋に辿り着いた。私の怪我のおかげで頂上へも寄らないで、そそくさとツブ沼駐車場へと下った。私は呑気に病院へは帰ってから診てもらおうと考えていたが、宮内さんたちにこの意見を一蹴され、直ぐに地元の病院へ向うこととなった。千衣子さんが119番に問い合わせ、休日の診療を受付している外科を探してくれた。午前中に水沢にある奥州病院に着き、麻酔を打って、4針縫って、一応レントゲンも撮り、頭蓋骨に支障がない事を確認した(脳への影響はわからない)。家に帰ってから数日後。クマから「ヤキが廻ったな」とメールが届いた。